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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第19章 鬼界の異変

(これは、たしかあの人がわたしに用意した寝具……?)
巫女は辺りを見回し、記憶をたどった。
ここは鬼の屋敷の…ように見える。静かで荘厳な空間。
そこに寝ていた自分は、身体が酷く重い。熱がこもり、頭がズキズキと疼いている。風邪だろうか。冬の池に落ちたのだから無理もない。
ズキッ……!
「う……っ」
思い起こそうとすると頭に鋭い痛みが走った。
記憶が混乱し、断片的に蘇る。
冷たく深い池の水
冬の凍える水の中──死の縁を見た。
そして意識が遠のく中、鬼の顔を思い浮かべたのだ。
(そして、わたしはあの人の夢を……)
熱い舌と眼差しで身体の芯を溶かされそうな、生々しい夢。あの感覚が、身体の熱として今も残っている気がした。
(では、ここは?)
巫女は几帳をそっとめくり、広間を見渡した。
戸が半分開いた向こうから、穏やかな風が吹き込む。人界は冬だったのに、ここはどう見ても違うのだ。
池に落ちた時は裸だった姿も、今は漆黒の上衣をまとっている。
ゆったりとした衣は彼女の華奢な身体には大きすぎ、足先まで覆い、胴も袖もぶかぶかだ。
「この匂い……」
巫女は胸元に鼻を近づけた。甘さの中…ほのかに野性味のある香りが漂う。
鬼が自分の着物を彼女に着せたのだろう。
その匂いに、彼の存在が鮮明に蘇り、胸が締め付けられるような感覚が走った。
(何故?わたしは境界に戻ってきている…?)
それでは鬼に抱かれたのも夢ではないというのか。
巫女が信じられないでいた、その時
「巫女!!」
突然声がして、彼女の心臓が跳ねた。

