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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第18章 捨てた名前



 鋭い黄金の瞳が、霧の中で光り、口元は固く結ばれている。



『 ……僕だけ、か 』


『 ああ 』


『 悪ぃね 』



 鎖に繋がれた少年が
 不意に、八重歯をむき出して笑った。


 傷だらけの顔に、不釣り合いな陽気さ──。


 それを見た銀髪の少年の顔が、逆に悲しみに歪んだ。唇がわずかに震えていた。



『 ……泣きそうな 顔 』


『 ……っ 』


『 するんだ…ね、君も 』


『 お前が馬鹿だからだ 』


『 …………ああ、そうだよね 』



 鎖に吊られた少年が目を閉じる。


 長い睫毛が、血と汗で濡れた頬に影を落とす。ふぅ……と、弱々しい息を吐き、彼は静かに呟いた。



『 なぁ、最後に、いいかな 』



 その声は、風に消えゆく炎のごとく儚い。銀髪の少年がわずかに身を固くする。



『 君には…僕を、探してほしくない 』


『 …… 』


『 だから‥‥さ‥‥! 』


『 それなら名を捨てるべきだ。それを知っている俺には、お前の居場所がわかってしまう 』


『 そう…だね、‥‥‥名を、捨てよう。もういらない 』



 額に走る傷から、ツーーと血が垂れ落ち、まるで涙のように御堂の床に滴った。


 黒い霧がその血を飲み込み、床に血溜まりが広がる。




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