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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第18章 捨てた名前

…
……──
………───
其れは──八百年前の、鬼界。
冷たく重い、黒い霧
その霧が一面に立ち込める森に、ひとつの御堂があった。
とうの昔に使い手を失い、朽ち始めた御堂。
その中には、四方から伸びる太い鎖があり、錆びた鉄のきしみを響かせ、中心で交錯していた。
『 ──… 』
鎖の中心には……ひとりの少年が吊られていた。
鎖は彼の腕と胴を締め付け、身体を宙に浮かせ、自由を奪っている。
少年の生成(キナリ)色の長髪は、傷だらけの身体に絡みつき、血が滲んだ跡を隠して垂れていた。白い肌は切り傷や打撲で赤黒く染まり、血が滴って床に小さな溜まりを作る。
『 災いの元凶を殺せ! 』
『 その魂を、永久に鬼界から追放しろ! 』
御堂の外では、キィキィと甲高い怒号が飛び交う。無数のモノノ怪の声が、怨嗟と憎悪に満ちて重なり合い、黒い霧を震わせた。
ギィィィィ....
そんな中──御堂の扉が、軋む音を立てて開く。
『 他の呪いは、境界の中に閉じ込めた 』
『 ──… 』
『 後は……お前だけ、だ 』
暗闇から現れたのは銀髪の少年だった。

