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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第17章 込み上げる想い

 虚ろな瞳が、ぼんやりと鬼の顔を捉える。

 彼女の視界はまだ朦朧とし、意識が現実と暗闇の狭間をさまよっていた。

 ぼやける視界では……

 鬼の黄金の瞳が此方をじっと見つめている。


「ど……して、……あなたが…………?」


 彼女の頬に添えた掌に、巫女が震える手でそっと重ねた。


「ご、めんな……さい……」

 彼女の声は小さく、そして、か細い。

(どうして鬼がわたしの目の前にいるのかしら)

 状況を理解できず、彼女はこれが夢だと考えた。

(そう……夢なの)

 鬼が自分の目の前にいる筈はない。自分は、彼の檻から逃げ出したのだから。

「ごめんなさい……!」

 巫女は謝罪を繰り返す。

 涙が頬を伝い、濡れた髪に絡まる。

「……何を謝る? 答えろ」

 鬼の声は低く、彼女の言葉を求めた。



「わたしはっ……あなたから逃げたのに」



 夢だとしても、いや、夢だからこそ、素直に言える。

 彼女の声は罪の意識に怯えていた。



「あなたの…孤独に気付いていながら、わたしはっ……逃げることを選びました。モノノ怪と取り引きを し、身体をっ…差し出すという卑怯な手を、使いました……!」


「──…」



 鬼は無言で聞いていた。

 巫女の瞳からは、ポロリと涙が零れる。



「…っ…なの に、モノノ怪に辱められているときも……侍に犯されんとしたときでさえ……わたしの脳裏に、浮かんだ、のは

 あなたのっ…──あなたの顔だけだったのです……!」





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