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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第17章 込み上げる想い

 彼女の震えは、寒さだけでなく、罪の意識によるものだった。

 鬼は彼女の泣き顔を見つめた。

 彼女の涙が流れ落ちるさまをじっと捉える。

 鋭く冷淡な顔立ちにも、動揺が走っていた。

「わたしにはっ……あなたにすがる資格など、ありませんのに…!」

「……?」


 ほんの少し。ほんの少し前だ。


『 いっそ、殺してしまおうか── 』


 つい先程まで彼女を殺そうかと考えていた鬼なのに、今は彼女の言葉を聞くことに夢中だった。

 彼女の謝罪の意味、涙の理由は、鬼には理解できない。

 だが、彼女が必死にこちらを向き、何かを伝えようとしている──。その事実だけで彼の胸に奇妙な安息が広がる。


「何故泣くのか知らんが、問題は無い」

 鬼は低い声で言い放ち、胸元に置いていた手を彼女の震える肩に添えた。

「言ったろう…──お前の支配者は神ではなく、俺だと」

 彼は頬に口付け、涙を舐めとった。塩辛い味が、彼の舌に残る。

「であればお前が俺に助けを求めるのは必然だ」

「……っ」

 ヒック、と巫女の喉から嗚咽が漏れた。

 鬼の言葉は高慢で勝手だ。

(……なのに、温もりがある)

 夢だからだろうか。彼女はゆっくりと目を瞬かせ、虚ろな瞳で鬼を見あげた。



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