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愛の笛
第4章 悪友の結婚

車が走り出して草薙の姿が見えなくなると
「今のは彼氏さんですか?」と黒いスーツにサングラス姿の運転手が葉子に尋ねた。

「大学時代の同窓生なの。彼、海外の生活が長いから親愛を込めてキスをするのが当然みたいなの」

「それならばいいんですが、
あなたはご自分の立場をよくわきまえてもらわないと…」

「わかってるわよ…
私は局長のモノだと…」

それならいいんですけどねと
運転手は片方の口角だけ上げてニヤリと笑った。

車は滑るように外国のVIPが宿泊先として利用する高級ホテルの地下駐車場の所定の場所に停車した。

「局長は先に来られてます」

車の中で簡単にメイク直しを済ませた葉子は「いつもの部屋ね?」と問いかけ、運転手が何も言わずにコクリと頷くのを確認すると、意を決したように車を降りた。

駐車場からのエレベーターに乗り込み、目を瞑っていても指先が押し慣れた行き先階のボタンを押す。
静かだけれど高速エレベーターのフロアランプがどんどんと進んでゆく。
やがて、不快な減速を感じてかなりの高層階でエレベーターはストップした。
マウスタブレットを一粒口に入れてカリっと噛み潰すと、エレベーターのミラーで再度身だしなみを整えて葉子はフロアに降り立った。

フロアカーペットを踏みしめながら歩いてゆくと、
目的の部屋に到着した。

ドアホンを押して「白木です」と名乗り出ると、
部屋のドアが静かに開いて「待っていたよ」と中から腕が延びて葉子の手首を掴んで部屋の中に引きずり込まれる。

「呼べばすぐに駆けつけてくるのは大変良い心がけです」と
部屋の中に引きずり込んだ男はドアを閉めるや否や葉子を抱き締めた。

彼は外務省のエリート局長で、
葉子とは不倫関係にあった。

「局長…そう何度も呼びつけないでください。
私にだって都合というものがあるんですから」

口ごたえすると分厚いレンズのメガネの奥の瞳からキッと睨み付ける視線を葉子に注いだ。

「君が若くして今のポストにありつけているのは誰のお陰だい?」

そう言って局長は葉子の顎に手をかけて無理やり正面を向かせ、
そのまま荒々しく葉子の唇に接吻した。

「局長に目をかけて頂いていることには感謝しております」

「では、いつものように感謝の気持ちを態度で示さないとね」

局長は葉子の肩に手を置いて、しゃがみこめとばかりに押し下げた。

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