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愛の笛
第3章 バイト先の女
一通り掃除を済ませてから小一時間も経つが客は一人も現れない。
「今夜は暇ね」
手持ち無沙汰なのか美穂は生欠伸を噛み殺しながらカウンターから抜け出してきた。
「ね、どうせ暇なんだから、こっちに座っておしゃべりでもしましょうよ」
お店の片隅のソファーにドカッと腰を降ろして
こっちに座りなさいなと隣のスペースをポンポンと片手で叩いた。
「いいんですかね?
こんなに暇で僕の時給は発生するんでしょうか?」
忙しくてバタバタする仕事も辛いが
こうして暇でなにもすることがないというのも以外と辛いものだ。
「今夜は日曜の夜だもの
毎週日曜日はこんなものよ
あなたが働きに来てくれて私も嬉しいと言ったわよね、
話し相手が出来たんですもの」
確かに客が来ない店でポツンと一人っきりというのは寂しかっただろうなと草薙も理解できた。
「ね、こういう時だから親密になりましょうよ」
親密というのはイチャイチャすることなのだろうかと
草薙は思わず赤面した。
「やだ、何を緊張してるのよ
別にあなたを口説こうと言う訳じゃないのよ
ほら、私たち、まだお互いによく知らないからおしゃべりでもしましょうって意味よ」
「そうか、そうですよね」
ラブラブなムードになることを少しだけ期待していた自分がバカみたいで、アハハと草薙は照れ隠しに、はにかんだ笑いを漏らした。
「ね、草薙くんって26歳だったわよね?」
「ええ、会社勤めの苦労も知らないから
ボンボン顔で若く見られがちですけどそれなりの年齢ですよ」
「ねえ、どうして定職につかないの?
履歴書を見たけど大卒なんでしょ?
その気になれば働き口はすぐに見つかると思うのに」
「多分、人間関係とか束縛されるのが嫌だからです」
「ふぅ~ん…自由人なんだ~」
「でも、海外ボランティアをやってるんで
会社勤めでは得られないものをたくさん経験させてもらってます」
「いいなあ~、私も海外に行ってみたいわ」
美穂は35歳という年齢で、飛行機に乗るのが怖くて海外はおろか、沖縄や北海道にも行ったことがないのだと教えてくれた。

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