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愛の笛
第3章 バイト先の女

「すいません!遅くなりました!!」

いろいろバイトを転々としてきて、これだけはしっかりしないといけないと学習したこと。
それは、初めの第一声が大事だということ。

だから草薙は努めて明るく元気にバイト先であるバーに飛び込んだ。

「ほぉ~…バイト初日から遅刻とは、かなりいい度胸をしてますねえ」

バーのマスターがグラスをタオルで磨きながら
穏やかな口調だけれども厳しい視線を草薙に降り注いだ。

「すいません、いろいろバタバタとしていて…」

バイトを転々としてきて
草薙が唯一プロ並みに身につけたのがカクテル作りだった。

「まあいいや、カウンターは美穂ちゃんに任せることにしたから、君は初日だしグラスの片付けとか、今夜は店の雰囲気に慣れるとこから始めてくれればいいから」

僕はちょいと野暮用で留守にするけど、後のことはよろしくね~

そう言うと店長は鼻歌まじりで機嫌よく店を出ていった。

「麻雀に行ったのよ」

店長が出ていった店のドアを睨みながら
カウンターの中からバーメイド(女性のバーテンダー)の美穂と呼ばれた女性がため息をついた。

「あ、僕は今夜からバイトでこの店のお世話になる草薙です。
草薙健一と言います」

「ええ、わかっているわ。
店長からあなたの履歴書を見せてもらったもの
私は遠藤。遠藤美穂よ、今夜からよろしくね」

「遠藤さん、よろしくお願いします
で…僕は何をすればいいんでしょう?」

「美穂でいいわ、名字で呼ばれるのは好きじゃないのよ
バイトがすることなんてたかがしれてるわ
そうね、店の奥に掃除道具が入っているロッカーがあるからモップで床掃除でもして頂戴」

「わかりました…美穂さん、店長っていつもあんな感じなんですか?」

「そうね、結構、顔が広い人だから何だかんだとお誘いが多いのよ。
まあ、お店にいてもお客さまと無駄話をするばかりで、オーダーは私が全部引き受けるから居てもいなくてもいいんだけどね
でも、私が女だから、お店に一人だけ残しておくのは心配みたいなの。
だから、あなたが来てくれて店長は喜んでいたわよ」

実は私も嬉しいのと
美穂は初めて草薙に笑顔を見せた。
 
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