この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛の笛
第3章 バイト先の女
ちぇっ!
いったいどうしちまったというんだ!
完全に葉子を落としたと思ったのに
満足したらハイサヨナラなんて完全に俺は道化師じゃないか!
何気に腕時計を見て時間をチェックすると
バイトの時間が迫っていた。
「おいおい、初日から遅刻なんて洒落にならないぞ」
懐の具合が乏しかったが
背に腹はかえられぬ。
草薙は思いきって通りすがりのタクシーを捕まえた。
あのまま葉子が自分に惚れてくれれば
ヒモのような存在になって、あの部屋に居候してやろうと思っていた。
だから、あの時はバイトなんかクソくらえだと
時間が押し迫っているにも関わらず葉子との二回戦を挑もうとしていたのだ。
ところが葉子の奴ときたら
満足したらハイさよならだもんなあ…
くそっ!
世の中、うまくいかないもんだな。
タクシーに揺られて考え事をしていると
少しずつ冷静になってくる。
そしてたどり着いた答え…
もしかしたら二人が満足のゆくセックスをやり終えると
あの笛の効力って失効するんじゃなかろうか…
仮に相手が満足していなくても笛を吹いた自分が満足してしまったら、願いは成就されたとされて効力が失くなるのかもしれない。
その逆もまた有りうるのかもしれない。
俺はあの時、まだまだ満足などしていなかった。
現に二回戦を求めようとしていたのだから。
だとしたら、思いを添い遂げて一生の伴侶にしたい相手には、例の笛を使わずに正攻法で口説かなくてはダメということではないか。
ムリだ!ただでさえ恋愛下手な自分に
正攻法で女を口説ける自信などない。
いや、しかし、待てよ…
生涯を共にする伴侶を捕まえられなくても、
性欲が昂ってセックスがしたくなったら、どこの誰とでも寝れるということじゃないか。
それこそ、チャランポランな自分の人生には似合っているのかもしれない。
「お客さん、この繁華街でいいですか?」
考え事をしているうちにタクシーはバイト先の店にたどり着いたようだ。
「ああ、すいません、ここでいいです」
タクシー代を支払うと、
財布に残っていたたった一枚の渋沢栄一が消えて梅子だけが虚しく残っているだけだった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


