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わたしの昼下がり
第3章 訪ねてきた男
 うちを訪ねてきたセールスマン…もちろん名前は『〇沢』などではなく、差し出された名刺に書いてあった名前は『△井』でした。□田さんにはちょっと悪い気もしますけど、△井の眼にはわたしの方が好みに映ったのでしょう。それとも、□田さんをやり過ごしてきた次のところで妥協しただけなのかもしれませんけど…。とにかく、すぐそこにあるゴミ袋には『〇沢』との名残りのティッシュペーパーがいっぱい入っているのは確かなこと…。

 『またお邪魔してもいいですよね? 奥さん』

 事を終えてタバコに火を付けた△井がわたしに声を掛けます。わたしは股を閉じることもできずにただ『ハァハァ』と息を荒げているだけ。何度もアクメさせて息も絶え絶えの女にそんなことを訊くなんてずるい…と思いましたが『是非、また来てください。男をくわえ込みたかったんです』などと答えずに済んだのは△井のせめてもの気遣いだったのかもしれません。わたしが久しぶりのアクメを味わっているのは一目瞭然だったでしょうから…。

 別にわたしは△井に何かモーションをかけたりした訳ではありませんでした。セールスの中味も忘れていました…というか上の空だったのだと思います。井戸端会議の話から、そういえばそうだったかも…と思い出したくらいです。もちろん無理やり押し倒されたりした訳でもありません。気が付いたらそういうことになっていた…というのがいちばん合っている感じです。

 『奥さま、お疲れ様です。いつも家事でお忙しいでしょうに、この暑さでは余計に大変ですよね』

 最初に△井はそう言ったのは覚えています。夫からはかけられたことのないような言葉がうれしく、当たり前のようにドアを開けていました。その後、何か商品の説明があったような気はしているのですが、わたしはただぼんやりとしていただけでした。

 『奥さま、ご気分がすぐれませんか? すみません、また、伺います』

 その言葉にハッとして我に返りました。

 『いえ、こちらこそすみません。なんだかぼーっとしてしまって。立ったままですみません、どうぞ中へ…』

 ただ商売のために各戸をまわっているセールスマンなのですから、立たせたままでも別に恐縮することもないはずなのですが、そのときのわたしはこの男に気の利かない女と見られたくないというふうに思ってしまったのでした。
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