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わたしの昼下がり
第1章 くわえ込む
 『今日は奥さんのお誕生日なのに、早くお家に帰らなくてもいいんですか』
 『いいんだよ。帰りは遅い方がいいんだ。アイツだって今頃、どこかの男を家にくわえ込んでいるんだから』

 そんなやり取りを思い出しながらわたしは自分を慰めます。スーパーに行く途中の道に映画館の掲示板が立っていて、『団地妻』を題材にしたポルノ映画のポスターが貼られていました。『日常の隙間にしか現れない、もう一人の私。』という宣伝文句まで覚えています。物憂げな表情の女優さんが他人のようには思えないような気がしていました。

 (ひとりで悶々としていても仕方ないのよね。こういうのも悪くないかも…。来月には33になるんだし…)

 でも『くわえ込む』相手のあてもありません。実際にはあり得ないからこそ映画の題材になっているのに、それを実践しようと思ってしまった自分に失笑しました。それでも、わたしは頭の中で『相手』を思い描いて、若いのか、年上なのかもわからない顔のない男と激しく交わってアクメに達したのでした。男の顔は、はっきりしない。

 ずり下ろした下着をなおしてわたしはカーテンを開けました。見慣れた風景が広がり、学校からのチャイムが聞こえてきます。今月も今日で終わり。カレンダーを一枚破いてわたしの誕生月になりました。誕生日は平日です。夫が仕事を早く切り上げて帰ってくることはないでしょう。
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