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第9章 白百合

　今日は学校の帰りにおじさんを訪ねる。『今日は』なんて言ってみたけど『今日も』かな。でも、今週は今日が初めてだからやっぱり『今日は』で。ガラス戸を開けるとお花のいい匂いがする。

　「こんにちは。いい匂いがしますね」
　「いらっしゃい。気が付いてくれてうれしいよ」

　お部屋の机に花瓶に白い百合の花が五本くらい。

　「知り合いが庭にいっぱい咲いたからって持ってきてくれたんだよ」
　「素敵なお友達がいらっしゃるんですね。すごくきれい」
　「この花、やっぱり恵子ちゃんにぴったりだ」
　「えっ、そうですか？　うれしい」
　「白百合の花言葉は『純潔無垢』だからね」

　（たとえ、頻繁にここを訪ねてその都度、おじさんと性行為をしていても…？）

　「あは…。『純潔無垢』でいいのかな…」

　おじさんは皮肉を言うような人じゃないのはわかっているけど、無邪気に喜んでいいのかという感じはする。

　「恵子ちゃんは『純潔無垢』だよ。この花の白い色、さわやかな香りそのままにね」
　「ありがとうございます。お花、一本、お家に持って帰りたくなっちゃいます」
　「恵子ちゃんさえよければ。でも、『一本だけ』はお供えの意味になってしまうから」
　「そうなんですね」
　「三本ならを表すよ」

　一本でも三本でも、娘が白百合を持って帰ったら、びっくりするだろうな、お母さん。「愛」、「喜び」、「誠実」は、ある意味、いまのお母さんによく似合う言葉だと思うけど。

　『どうしたの？　そのお花。どこかで貰ったの？』

　そんなふうに訊かれるに決まってるし、ここで貰ったと言う訳にもいかないし。やっぱり持ち帰るのは遠慮しておいたほうがよさそう。