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わたしの日常
第3章 はじめての小旅行
 義父は友人に出逢ったように満足そうな顔をしている。秘すべきことというのは判っていても、それだけに誰かに話したくもなる。そんな高揚した気分。お互いのからだから湯の香りがするのを感じながら抱き合う。女湯に一緒に浸かっていたらわたしたちはどんな話をしたのだろうか…。

 『一泊するだけでは足りないものですから…』
 『ええ、本当に。やっぱり旅先で…というのもよいものですね。うちももう一泊したくなりました…ご夫婦ではないのだそうですね』
 『ええ、夫とは味わえない感覚を教えられてしまって…』
 『うちも同じです。いけないとわかっていても、もうやめられません…』
 『お部屋に戻られたらお休みになるんですか…』
 『せっかく二人きりになったので…。もう夜も更けているのですけどね…』
 『本当に…。でもたぶん…』
 『ですよね…』

 そんな想像をしながら、お湯で活力を補った義父とわたしはふたたびまぐわい、そして眠った。

 朝になり、食事をしてわたし達はバスで駅に送ってもらった。もう一組の男女もバスに乗っている。今日は観光を楽しんで、また夕刻に宿に戻ってくるのだそうだ。男の人はカメラを首から提げ背負ったリュックサックから三脚がのぞいている。

 「カメラがご趣味なんですか」
 「ええ。いろいろ撮ってはたのしんでいます」

 「結構ですね。風景などお撮りになるんですか」
 「風景も撮りますし、ウチのを撮ったりもします」
 「お綺麗ですから腕が鳴りますね」
 「これはおそれいります。おい、お褒め頂いたよ、れいこ」
 「やだ…」

 『れいこ』さんが恥ずかしそうにしている。男たちのほうがお喋り。女は黙って会話を聞いている。バスが駅に着いた。

 「では、わたしたちはこれで。よい旅を」

 義父が先方の男女に声を掛ける。

 「あの…すみません。シャッターを押していただけませんか」

 男の人にカメラを渡されて義父が並んで立つ男女に向かってシャッターを押している。

 「ありがとうございます」
 「ちゃんと撮れているといいのですが」

 義父がカメラを男の人に返す。

 「大丈夫です。構えがしっかりしておられます。腕にお覚えがあるんじゃありませんか?」
 「いえいえ」
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