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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

 少し遅めに、豆とベーコンの入ったスープに、クリームチーズを塗ったトーストパンだけの質素な夕餉を済ませた富田は、ここ数ヶ月間もモヤモヤしていた気持ちがすっかり晴れて開放的な気分になった。上海から持ち帰ったスコッチウィスキーをワンショット煽ると、食器を下げてテーブルを拭き始めた千勢の傍(そば)に歩み寄って、そのまま抱き締めた。千勢は、素直に富田の胸に顔を埋めた。

 「ご主人様・・・。夕餉の時から、とても穏やかなお顔をされてらっしゃいます。」

 「千勢は人の気持ちを汲み取れる優しい娘(こ)だ。この前は、気持ちがすぐれないまま自分勝手に乱暴なことをしてしまい、すまなかったが、もう大丈夫だ。」

 「はい。ご実家に事情があると仰っていましたが、肩の重荷が取れたご様子で、何よりでございます。それに、この前のことはお気になさらないで下さいませ。あの後、直ぐにいつものご主人様に戻られて、優しくしていただき、千勢は嬉しゅうございました。」
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