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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

千勢の当番が終わる日曜日、富田は昼前に、父の実家である結城家から差し向けられた車で、愛宕下の屋敷に向かった。上海で父親と相談した富田の今後の身の振り方については、その後、父から祖父に書状が届けられており、祖父がそのことで富田と直接に話をしたいとのことだった。
富田にとっては、緊張しながらの訪問であったが、対面した祖父から<当面は富田家の意向に沿うことを了解する>旨が告げられた。その場で、富田は大蔵省秘書課長の私宅に電話して、採用内定を受けることを伝え、返事を長く待ってもらったことに謝意を表した。祖父と伯父、従兄を交えた昼食は、富田の高等文官試験合格と、大蔵省への奉職内定の祝賀会となった。
夕刻に「西片向陽館」に戻った富田は、朝からの緊張の疲労感と、肩の荷が下りた安堵感が混じり、長かった昼食の余韻もあって、あまり食欲も感じなかったので、千勢には、<夕餉は簡素に>と言い置いて、ベッドで少しの間、うたた寝した。

