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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

 「いいえ、ご主人様。お気持ちを和らげるのに、少しでもお役に立てたのでしたら、嬉しゅうございます。私こそ、もっと上手な振る舞いができれば良かったのですが、まだ慣れていないことで、申し訳ございませんでした。」

 富田は、千勢の殊勝な言い振りに胸を詰まらせ、震える声で短く 「そんなことはない。助けてもらって・・・、有難う。」 とだけ、短く答えた。そして、エプロンを脱がせ、それを手拭いのように折りたたんで千勢の口元に当てて、残った精のほとばしりを吐き出させ、口周りを拭(ぬぐ)ってやった。そればかりか、サイドテーブルからカップを取り上げて千勢に一口含ませ、 「少しは楽になったか。」 と、いたわりの言葉を掛けた。二人の間に、カモミールのハーブティーの香りが漂った。

 千勢は、富田の優しい振舞いに、涙目を更に潤ませ、富田の胸に顔を預けて、囁(ささや)くように話し出した。
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