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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

革ソファーの前で、絨毯(じゅうたん)に尻を落とし、涙を溜めて放心したように荒い息遣いを続ける千勢に向かい合って、富田は正座して前のめりになり、千勢の両肩に手を置いた。千勢は、涙で目が霞み、富田の表情ははっきりとは見えなかったが、両肩に置かれた手から伝わる柔和な雰囲気から、少なくとも、さっきの怖いような視線は消えていることを感じ取った。富田が、優しい口調で千勢に謝り始めた。
「辛いことをさせて、すまなかった。このところ実家に事情があって、モヤモヤした気持ちが日に日に募(つの)って、とうとう、自分の不快な気持ちを千勢にぶつけてしまった・・・。でも、千勢の涙を見て我に返ったよ。女中勤めも夜学も、普段から一所懸命の千勢のような娘(こ)を、自分勝手に気持の<はけ口>にしてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。」

