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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

二人の唇が糸を引いて離れると、千勢が喘ぐような声で言った。 「ご主人様。こうして、くっついているのが嬉しゅうございます。」
「この前も、そう言っていたね。それじゃあ、布団の中でくっつくとしようか。」 誠一が、おどけた口調で誘い、寝間着の帯を解いて前を開けながら、布団に潜り込み仰向けに寝た。千勢も、枕元で半纏を畳んでから、誠一に背を向けて寝間着を肩から落とすように脱ぎ、腰巻をつけただけの姿で、尻から滑り込むように布団に入った。そして、誠一の肩に頭を置き、耳元でささやいた。
「ご主人様。明日の日曜日は、朝はゆっくりでよいと仰せだったので、お言葉に甘えて、遅い時間からですが、少しお話をしてもよろしいですか。」
それを聞いた誠一は、このところの朝餉の時の様子からして、文学の話になるのだろうと思いながら、今にも男女が抱き合おうとするような瞬間に、しかも寝間着を脱いだ格好で、急に文学少女の雰囲気を醸し出す千勢に、いつもながらの驚きと、不思議な魅力を感じた。

