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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

千勢は、納得したように微笑みながら、 「かしこまりました、ご主人様。私の学業のことまでご配慮をいただき、有難う存じます。」 と返事をして、お辞儀をして立ち上がった。その時、誠一は、幸乃が<抱きしめていただくだけで、女子(おなご)は嬉しいものでございます>と言っていたのを思い出し、自分も立ち上がると、「座敷」を出ようとしていた千勢を呼び止めて後から抱き寄せ、 「今夜は、初めての私の当番のことを思って部屋に来てくれて、有難う。」 と耳元でささやいた。
千勢は、俯(うつむ)いたまま、しばらく動かなかったが、やがて体を回して誠一の方を向くと、突然に背伸びをして誠一と唇を合わせた。驚いて目を大きく開いた誠一を、悪戯(いたずら)っぽい上目遣いで見て微笑むと、小走りに廊下へ出ていった。千勢の、半纏の上から感じた弾力のある胸と、微(かす)かに重なった柔らかな唇の、生々しい<成熟>の匂いと、後姿に揺れる三つ編みの<清楚>な雰囲気との差に、誠一は戸惑いつつも、不思議な魅力を感じたのだった。
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