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天狐あやかし秘譚
第35章 真実一路(しんじついちろ)
何度も、何度でも、考えようとしなくても、あの日の光景が勝手に心に湧き上がってきてしまう。湧き上がるたび、私は叫んで、悶えて、死を希った。

私が・・・私が死んでいれば・・・。

「あああ・・・あああ!うぐう・・・ああああ!」

この身を切り裂きたい。自らの臓腑を取り出し、そこらに撒き散らしたい。後悔しても後悔してもしきれない・・・。

どうしようもなく、胸をかきむしった。目を見開き、何度も叫ぶ。大きく腕をふるった拍子に、ピンと点滴の針が抜け落ちて、鋭い痛みが走った。それでも構わずに身を捩り、悶え、苦しみ続けた。

この・・・この行き場のない怒りを、悲しみを、悔恨を・・・一体、どうすれば・・・抱えられるというのだ・・・!

「おや・・・随分、後悔なさっていると見える」

女の声がした。誰もいないと思っていたのに・・・。そう思って、声のする方を見た時、私は己が目を疑った。

そこには黒い服の女がいた。頭にも黒いベールをかぶっている。そして、その足元には・・・。

「た・・・環!」

女の足元にいたのは確かに環だった。その姿は事故の日のままであったが、身体中に幾重にも重そうな鎖が巻かれており、その鎖の端は私に声をかけてきた黒服の女が握っていた。女の表情はベール越しであり、見ることはできなかったが、雰囲気からして薄ら笑っているように感じられた。

「何・・・をしている・・・!」

あまりにも非現実的な光景に、それ以上の言葉が出なかった。女は、私の問には応えず、手にした鎖をじゃらりと引いた。その動きで、環は無理矢理に引き起こされ、苦しそうにうめき声を上げた。

助けなきゃ・・・と思うが、身体が動かない。なんで!?どうして?

「おっと・・・動かれちゃあ困るんで、ちょいと術をね」

女はやや芝居がかったような口調で言った。ふざけているようにも感じられるが、縛られているのは確かに環だ。見間違えようもない。どうにか動こうとするが、何か不思議な力で身体を束縛されていて、ある程度以上動かすことが出来なかった。なんだ?これは夢?夢なの?!

「ママ!助けて!!」
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