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天狐あやかし秘譚
第91章 顧復之恩(こふくのおん)
☆☆☆
「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等・・・」
烏帽子を被り白装束に身を包んだ神主が、恭しく祭壇に向かって祝詞を奏上している。祭壇前には、棺が安置されており、神主は幣を振って、それを清めていた。
亡くなった御九里塔若子(みくりとわこ)に対する神式の葬儀が、宮内庁陰陽寮の敷地内で厳かに執り行われていた。
参列者は少なく、土御門、御九里、それから日暮と九条。そして、今回の祭事を取り仕切っている大鹿島と瀬良だけだった。
神主が深く一礼すると、まずは御九里が玉串を持って祭壇前に立つ。そしてそれを、そっと用意された机の上に置くと、両手を合わせて深く頭を垂れた。
この日の彼の姿は、髪の毛の色こそいつもの白銀色ではあるものの、可能な限りワックスで撫でつけていた。ピアスも光沢の少ないものに付け替えられており、衣装は当然のように黒のスーツだ。そんな御九里が、たっぷり3分ほど、そのままの姿勢をとっていた。そして、顔を上げると、もう一度軽く礼をして、席に戻った。
ついで、土御門、そして日暮と九条、瀬良が玉串を捧げる。
最後に大鹿島が深々と一礼をしつつ、玉串の置かれた台を祭壇に届けた。
神主による祓えの祝詞の奏上を終え、棺が運び出される。そのまま、斎場で火葬されることとなっていた。さすがに顔の復元は難しかったようで、故人との対面、という部分は省略されていたが、それは御九里も承知の上だった。
火葬は、あっけないほどあっという間に終わった。
皆が斎場を後にしようとするが、御九里だけが歩みを止め、後ろを振り返っていた。午後から始まった祭事だったので、時刻はすでに夕暮れに迫っていた。茜射す空に一筋立ち上る白い煙を、彼はただ、ぼんやりと見上げていた。
「御九里・・・さん」
日暮が、おずおずと話しかける。普段とあまりにも雰囲気が違いすぎて、話しかけることがためらわれていたので、これが今日、初めての会話だった。
日暮はある程度の事情を、自分の上司である土門から聞いていた。
「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等・・・」
烏帽子を被り白装束に身を包んだ神主が、恭しく祭壇に向かって祝詞を奏上している。祭壇前には、棺が安置されており、神主は幣を振って、それを清めていた。
亡くなった御九里塔若子(みくりとわこ)に対する神式の葬儀が、宮内庁陰陽寮の敷地内で厳かに執り行われていた。
参列者は少なく、土御門、御九里、それから日暮と九条。そして、今回の祭事を取り仕切っている大鹿島と瀬良だけだった。
神主が深く一礼すると、まずは御九里が玉串を持って祭壇前に立つ。そしてそれを、そっと用意された机の上に置くと、両手を合わせて深く頭を垂れた。
この日の彼の姿は、髪の毛の色こそいつもの白銀色ではあるものの、可能な限りワックスで撫でつけていた。ピアスも光沢の少ないものに付け替えられており、衣装は当然のように黒のスーツだ。そんな御九里が、たっぷり3分ほど、そのままの姿勢をとっていた。そして、顔を上げると、もう一度軽く礼をして、席に戻った。
ついで、土御門、そして日暮と九条、瀬良が玉串を捧げる。
最後に大鹿島が深々と一礼をしつつ、玉串の置かれた台を祭壇に届けた。
神主による祓えの祝詞の奏上を終え、棺が運び出される。そのまま、斎場で火葬されることとなっていた。さすがに顔の復元は難しかったようで、故人との対面、という部分は省略されていたが、それは御九里も承知の上だった。
火葬は、あっけないほどあっという間に終わった。
皆が斎場を後にしようとするが、御九里だけが歩みを止め、後ろを振り返っていた。午後から始まった祭事だったので、時刻はすでに夕暮れに迫っていた。茜射す空に一筋立ち上る白い煙を、彼はただ、ぼんやりと見上げていた。
「御九里・・・さん」
日暮が、おずおずと話しかける。普段とあまりにも雰囲気が違いすぎて、話しかけることがためらわれていたので、これが今日、初めての会話だった。
日暮はある程度の事情を、自分の上司である土門から聞いていた。

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