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天狐あやかし秘譚
第88章 昼想夜夢(ちゅうそうやむ)
実際、日暮は戸惑っていた。好奇心旺盛な彼女は、ティーンの時に興味本位でこっそりと雑誌のセックス特集を読んでみたり、保健体育の授業の掘り下げで、あれこれ『性医学』の勉強と称して女性や男性の身体の構造を学んだことはあった。

なので、自慰・・・いわゆるオナニーの方法も知ってはいたし、何度か試してもいた。しかし、やり方が悪いのか、性的な刺激が当時の彼女にあっていなかったのか、それほど嵌まることはなかったのである。

ところが、ここ最近、御九里のことを思い出したり、趣味の小説を書いていては、こうしてすぐに手が『勝手に動いて』自分を慰めにかかってしまうのである。

実はこれ、先日彼女がゴーストドラッグによって色情霊に取り憑かれたときに、人身売買組織の一員である鴻上とその手下によって、『身体』をめちゃくちゃに開発されてしまった結果なのだが、彼女の『心』は、そのことをすっかり忘れてしまっているのだ。

彼女の主観からすると、自分が急にエッチになってしまった・・・そんな風に感じられているのである。

そんな正体不明の衝動がある中、偶然にも彼女がかねてから妄想していたシーンそのまま・・・ピンチの自分を救い出し、満月を背負って凛と立つ御九里の姿が目に飛び込んできたのだ。年齢イコール『彼氏いない歴』である33歳のアニオタ処女、日暮が、『これぞ運命の恋』と錯覚し、あっという間にメロメロになってしまうのも致し方ないことと言えよう。

「御九里さん・・・」

彼の名を呼びながら、くちゅくちゅとクロッチを指でなぞる。柔らかくももどかしい性感がじんわりと日暮の身体を高めていく。

・・・好き・・・好き・・・

どうしよう、気持ちに言葉がついていかない・・・
どうしたら・・・どうしたらいいの?

ドキン、ドキンと心臓が脈動する。頭がカッと熱くなり、まるで酔っ払ったようにふわふわとした気持ちになってくる。

な・・・名前・・・呼んでみちゃったり・・・

そんな風に思って、日暮は、愛おしい人の名を思い切って言葉にしてみる。

「が・・・牙城さん・・・」

ドキン、と胸が大きく跳ねる。
そして、一度、口にしたら止まらなくなる。

「牙城さん・・・牙城さん・・・」
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