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淫夢売ります
第50章 無邪気な淫魔:口づけ
もしかしたら怖くなったあいつがすぐに出てくるかもしれない、そう思ったが、5分ほど経っても戻らないところを見ると、そのまま風呂に入り続けることにしたようだ。灯りが来たことで落ち着いたのかもしれない。もともと長風呂の気があるし、今日はことさらゆっくり入りたいのかもしれない。久しぶりの二人きりの旅行だ。彼女が楽しめるに越したことはない。

静まり返った共用スペース。先程まで流れていたバラエティ番組の音がなくなったことで、見ちゃいなかったが、実はあれのお陰で場が保っていたのだということを悟った。

ちびりと手元のグラスに注がれたジントニックを口に運ぶ。緑色のライムがカタリとグラスの中で傾いた。ライムだけではなく、少しライムジュースが入ってるのだろうか、若干甘めのジントニックだ。

「お客さんは、東京から?」
沈黙が気まずくなったのかもしれない。オーナーの男が声をかけてきた。いや、もしかしたら、停電して手持ち無沙汰になった俺に気を使ってくれているのか?
「ええ、まあ・・・」
「いいですね、お嬢さんと二人旅」

その言葉に俺は曖昧に頷く。

「明日はどこか周るんですか?」
「ええっと、チェックアウトギリギリまではここにいようと思います。確か12時でしたよね?」
「ええ・・・あ、でも、別に次の客がいるわけではないので、もう少し遅くなってもいいですよ?明日も結構雨が強いみたいなので、観光するより、ゆっくりされたいでしょうし」

ああ、それは願ってもない。
明日、あいつが早起きできるとは思えないからな。

「じゃあ15時くらいまででも?」
「ええ・・・よかったらお昼もこちらで召し上がりますか?」
「それは助かります」

こういったペンションは食材をそれほど蓄えてはいないだろうから、急に料理を出してほしいと言っても断られるものだと思っていた。『まあ、大したものは作れませんが』と言っていたが、別にこちらは腹が膨れれば構わない。あいつもそれは同意見だろう。

これくらい話すと話題がなくなってしまう。沈黙がまた部屋の中に訪れた。

やっぱり長風呂だな・・・

ちらちらと風呂のある方の扉に目をやる。あいつが入った後に俺が入ることになっている。そうなると、寝るのがちょっと遅くなる。・・・まあ、旅先だし、それはそれで構わないか・・・。
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