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淫夢売ります
第50章 無邪気な淫魔:口づけ
【無邪気な淫魔】

「随分、荒れたなあ」

窓の外では轟々と風が唸り、大粒の雨がガラスを叩いていた。昨日の天気予報で知らされた通りの荒天だった。

長野県の山間、奥まったところにあるペンション『ホワイト・エンジェル』は、客室4室に食堂とバー風にも使える共用スペース、それと共同の風呂とトイレがあるくらいの小さな宿だった。作りが悪いということはないが、これだけの雨風だと、本当に吹き飛ばされてしまうのではないかと心細くなってしまう。

共用スペースでは、テレビが一台、見る人もないのにやたら明るいトーンのバラエティー番組を垂れ流していた。

ピカっと窓の外にフラッシュがたかれたような光が走る。瞬間、ゴロゴロゴロ・・・と空気を震わせるような音が響き渡った。

「すっげえ・・・雷だな・・・」

あいつが怖がらなきゃいいけど・・・。そんなふうに思った途端、バチン、と何かが弾けるような音がして、部屋が沈黙する。先程までテレビから流れていた笑い声も、蛍光灯の灯りも、全てが消え去り、真っ暗になった部屋はしんと静まり返る。

共用スペースのバーカウンターに座っていた俺は、窓から視線を戻し、バーカウンターの中にいるオーナーの方を見る。オーナーは手慣れた様子でカウンター下からLEDランプを取り出した。

「停電したようですね」

ぼわっと暖色系のLEDの明かりが灯り、部屋が先ほどまでとは違う雰囲気に染まる。空調も止まったのかもしれない。若干、空気が重く湿った感じがした。

「おーい!さっちゃん・・・お風呂のお客様にも明かりを持っていってあげてくれ」

奥のキッチンにいる人・・・おそらくはオーナーの奥さんだろう、に声を掛ける。確かに今、風呂にはあいつが入っている。いきなり真っ暗になってしまって、もしかしたら悲鳴のひとつでもあげているかもしれない。

『はーい』という返事、ぱたぱたと音がしたかと思うと、闇の中、灯りがひとつ移動していくのが見えた。どうやら、奥様が灯りを携えて風呂に向かってくれたらしい。
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