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淫夢売ります
第45章 仮面の夜会/三夜目:ゲリエール
「お客様?・・・大丈夫ですか?」
少しぼんやりしてしまったのを女が心配したようだった。私は慌てて首を振った。

「では、プスドニムをお決めください」
仮名・・・?
そう言われても、全く思いつかなかった。なので、素直に女にそう言った。
「わかりました。そうおっしゃる方も多いんですよ?そういう方には『リノソンス』と名乗っていただくことにしています。これでよろしいですか?」

リノソンス・・・?
なにか意味のある言葉なのだろうか?

では、と言って女がマスクを取り出す。マスクと言っても顔の上半分、鼻から上を覆う白色ののっぺりとしたマスクだった。ちょうど、舞台『オペラ座の怪人』のファントムが付けているマスクに似ていた。あれよりも顔を覆う部分が少ない感じだ。

「もし、良いプスドニムを見つけた場合は、教えてください。そちらを登録いたします。マスクも新しいものにしますからね」

それでは、店内に・・・と女は言うのだが、ここにきて私は急に不安になってきてしまった。
得体のしれない店に一人で入れと言われたせいかもしれない。自分の顔や名前を急に奪われてしまったせいかもしれない。

とにかく不安になってしまったのだ。

「え・・・と・・・」

そもそも、こんな店に行こうと本当に私が思ったのか全く覚えていない。入る義理はないのではないか?とも思った。そんな私の戸惑いを見透かしたかのように、女が提案をしてきた。

「ふふ・・・そうですよね?戸惑われるお客様は結構多いんです。ご安心ください。キャバリエ・・・いわゆるエスコート役をご用意させていただきますわ」

少々お待ちください。そう言って、女は入ってきた扉から出ていく。程なくして、翼を広げた鳥のような赤色の仮面を付け、深いブルーのタキシードを着た男性が入ってきた。年の頃は30代中盤といった所だろうか?私と同年代か、少し上のようだった。

「私が今宵、幸運にも貴女のキャバリエを仰せつかりました・・・プスドニムはデューク・・・デュークとお呼びください」
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