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淫夢売ります
第31章 白の花園:開く扉
扉から顔をのぞかせて、彼女の名を呼んでみた。しかし、答えるものはやはりなかった。
ユミは鍵がかかっていて入れないと言っていたが、鍵を見つけたのだろうか?どこか、ココからは死角になっているところでうたた寝でもしているのだろうか?

そっと、庭に入ってみる。
入ると、不思議なことに、強い百合の花の香りが急に鼻腔を満たすのを感じた。

一歩、一歩、庭を踏みしめるように歩いていく。周囲を見渡すと、様々な白色の花が庭を満たしている。そして、奥には私の記憶にもある大きな樹があった。

「この樹・・・やっぱり知っている」
見上げると、重なり合う葉の隙間から陽光が差し、キラキラと輝いていた。

「ねえ!鬼ごっこしよう!」
不意に子ども声がした。振り返ると、さっきまでいなかった女の子がいる。
その姿は・・・

私?

それは小学校の頃の私だった。『私』が黒い影のような誰かと鬼ごっこをしている。黒い影、は影としか言いようがなく、かろうじてシルエットから女の子だということが知れた。ふわりとした髪の毛、たなびくスカート、その子は私に追いかけられて、キャッキャと歓声を上げて逃げていた。

何が起こっているのかわからないまま、呆然と見ていると、影は不意に消えてしまう。

「・・・ちゃん・・・あやとり上手!」
また後ろから声がする。振り返ると樹の下に向かい合って座っている『私』と影がいた。二人はあやとりをしているようだった。
「すごい!これも取れちゃうんだ!」
『私』はとても楽しそうに見える。影の子もふふふと得意げに笑っているようだった。

一体これは何?

庭を見渡してみる。いつの間にか陽が暮れはじめていた。あたりが夕焼け色に染まってくる。

「・・・ちゃんは好きな人いるの?」
また場面が変わったのだろうか?
『私』が樹の下で、影の子に向かって話しかけていた。

あの服・・・。
そう、あの服だ。
黒い七分丈の上着に白いくまのプリント、黒のチェックのスカート。
そして、気がつくと、あたりにはヒグラシの鳴き声がこだましていた。

この場面・・・私、私は知っている・・・。

「私、夏に引っ越すの」
『私』が続けた。影は何も答えていない。
「これが・・・ちゃんと遊べる最後かもしれないの。
 だから・・・」

ダメ!
私は強烈に思った。
ダメ!それ以上言っちゃダメ!!
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