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千一夜
第48章 第7夜 訪問者 正体
 店の中に入る。古民家をリノベーションした店内には出汁の香りが漂っていた。日本の伝統家屋で日本料理、悪くない。
 カウンター席が十(もう少しあるかもしれない)だけで、店にはテーブル席も小上がりも座敷席もなかった。
 カウンター席にはすでに何人かの客が朝食を取っていたが、いくつかの席はまだ空いていた。料理人が「どうこちらへ」と勧めたカウンターの上にはすでにおしぼりが用意されていた。私と咲子はその席に座る。と同時に「ビール頂けるかしら?」と咲子が料理人に言った。
 いきなりビール? というような顔を一瞬で消して、料理人は「かしこまりました」と言った。それからあなたはどうされますか? という顔を私に向けたので、私も生ビールを頼んだ。 
 このとき私は知らなかった。このビールが咲子の戦闘の燃料になると言うことを。
 私と咲子の前にグラスに入った生ビールが置かれた。咲子はグラスを取ってビールを喉に流した。グラス半分のビールが咲子の体の中に入っていった。グラスを置くと「ああ美味しい」と言って咲子が私を横目で見た。
 私もビールを一口飲む。それは人生で一番苦いビールだった。街に帰れば市長選に向けての予定がびっしりと組まれている。咲子と二人でのんびりできる貴重な時間なのに、意味なく時間が過ぎていくことが何だか悲しい。ビールは私の心まで苦くした。
 料理が運ばれてきた。土鍋ご飯とみそ汁。メインの焼き魚は太刀魚だと店の者が言った。それから旬の食材が入った八つの小鉢。朝限定の和食御膳。
 みそ汁の香りが鼻孔を通った瞬間、心に広がった苦さが綺麗に消えて行った。箸を持つことすらもどかしい。私は両手で椀を持ち、みそ汁を一口啜った。
 誰もがいう台詞。そのとき私は本当にそう思ったのだ。「日本人に生まれてよかった」と。土鍋の白米が私を誘う。小ぶりなしゃもじで土鍋のご飯をほぐす。そしてそれを茶碗によそう。咀嚼する。白米の香りが口中に広がる。私はこんなに美味しい白飯を食べたことがない。
 一汁一菜とはよく言ったものだ。今の私には小鉢なんていらない。白米、みそ汁、焼き魚、これだけで十分。質素でありながら最高の芸術作品。今日の朝食は当たりだ。いやいや、大当たりだ。
 そう思っているのは私だけではないようだ。咲子も黙々と箸を進めていた。土鍋ご飯の朝食は、私と咲子を休戦させた。
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