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Memory of Night 2
第47章 春の訪れ

千鶴がスカートを捲った時に見えてしまった。脇腹にざっくりと入った赤黒い傷痕。
「もうそんなに」
「傷痕はやっぱ……残るよな」
「そらそーだろーね」
深い傷だし、なかなか綺麗にはならないだろう。かなり目立ってしまう気がした。
千鶴は露出した服も好む。たまにショーに出演することもあるようだし、傷が残って仕事に支障はないのか心配だった。
口には出さなかったが、表情に出ていたらしい。宵の考えていることを察したらしい千鶴が、言う。
「別に痕くらい残ったって大丈夫だよ」
「本当に? ショーとかもたまに出るんだろ?」
「だーかーら、もうショーは出ねーって。何度も言ってるだろーが。だいたい自分の店持ったらそんなヒマないだろ。仮に、本当に仮の話だけど出演者が足りなくて臨時で出たとしても、こういう傷が好きな変わり者に需要があるからいいんだよ」
「……こういう傷が好きな変わり者?」
「そう」
「ふーん、ならまあいいのか」
確かに、バーにはいろいろな性癖の客がいた。腹部のグロテスクな傷痕でさえ刺さる人には刺さるのか、と感心する。
千鶴自身がそんなふうに考えているのなら、心配することもなさそうだ。
手入れされてない木々がアーチのように頭上を覆い、陽光を遮断していた。そのせいで、道は薄暗い。
苔(こけ)のはえた坂道を登り、ようやく墓に辿り着いた。

