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親愛なるご主人さま
第22章 朝のテレビニュース
 
 永遠にも感じる十数秒の沈黙の後、圭吾は口を開いた。


 「ご主人様のことだ・・・実は昨夜・・慎一郎さんが・・・・・」



 「亡くなったのですね!」


 「えっー!!!! 菜穂子」

 3人が同時に驚きの声を上げた。

 「どうして知ってる?・・・」



 「昨夜、私に・・お別れを告げにいらっしゃいました・・」


 「そ、、?それって・・」



 玲子は昨夜、菜穂子の部屋をのぞいた時、菜穂子の頬に涙痕があったのを思い出した。


 3人が言葉を発せられない静寂のまま数刻が流れた。

 細井が努めて感情を押し殺すように事務的な口調でやっと話し始めた。

「まず、梶篠さん、お分かりと思いますが『納品』がなくなりましたので、契約金の残り半分は支払われません。X社も未払い分の補填は致しません。菜穂子さん。本日、この場で依頼主の香月慎一郎氏と、わがX社と梶篠調教師の三者で交わした奴隷調教委託契約書は破棄され、あなたは自由の身となります。契約破棄の理由は依頼主香月氏の・・・・事故死です・・・・これからそのエビデンスとなるTVニュースの録画をご覧いただきます」

 細井は東京を発つ前に撮ったVHSテープをビデオデッキに入れ再生ボタンを押した。

 菜穂子は正座したまま両手を床につきテレビ画面を見つめた。

 玲子が思わずソファーから床に下りて菜穂子の肩を抱いた。

 圭吾は菜穂子が玲子の腕の中で声を上げて泣き崩れるのではと想像した。

 しかし、圭吾の予想に反して、菜穂子は澄んだ目を見開き、涙一滴も流さずリピート再生するビデオ映像を何度も見た。ニュースレポーターが伝える即死した慎一郎の名前、顔写真、大破炎上してほぼ原形を留めないジャガーEタイプのボディを表情すら変えずに見続けた。目を真っ赤に潤ませ涙を浮かべたのは寄り添った玲子の方だった。

 「細井さん。今日から私は『自由の身』とおっしゃいましたね?」

 ビデオを見終えると菜穂子は無表情を崩さず質問をした。

 「そうだ。あなたは解放され、どこへ行こうと何をしようと自由だ。慎一郎さんや私に出会う前の貴女に戻った状態とも言えます」

 「・・・そうですか・・・では・・・」

 「なっ、菜穂子!」

 菜穂子が何か言おうとする前に、それまで黙っていた圭吾がうわずった声を発した。



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