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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第2章  〝岬〟 



 だからこそ、わたしをほっとさせてくれる笑顔。ごく自然に、手を差しのべてくれてるようだと感じる。

 それは、わたしのためだけの笑顔だった。

 彼にしてみれば、なんの変哲もない営業スマイルだったのかもしれない。いや、きっとそうだろう。だけど、それでもかまわないと思う。自分勝手に身勝手に、わたしが価値を見出したのだ。

 なぜなら彼の笑顔が、このわたしを諦めさせなかった。それこそが、純然たる事実。ぴったりの笑顔を、わたしは得ていた。この笑顔になら、会いにくることができる。

 その夜から彼と彼のいるコンビニが唯一の支えとなり、そして三日前には思わぬことから彼と近づくことになった。

「わすれものですよ」

 そう言って届けてくれた。その瞬間に、胸の中が自分でも覚えがないほどに熱くなった。

「あなたの笑顔が大好きです」

 そう告げずには、いられないほどに……。

 その後、メッセージで名前を聞かれた時に、わたしは迷ってから〖岬、でいいでしょうか?〗と返した。

 そこに本名を偽ろうとする気持ちはなくて、そこから新しく生きようとするため自らに与えた、きっかけのような意味合いだったように思う。

 少なくとも、最初はそうだった。

 存在を見失っていたわたしが生きる理由を見出そうとして、少なくとも山本均くんの前では〝岬〟になろうと決めたのである。

 そうしてコンビニの店員である山本均くんは唯一無二、私が望んで接触したい人になり、更に壁の内側にいてほしい人になった。

 だからこそ【エッチなこと】というメッセージにも驚くより、受け入れることを先に考えたのも自然なことだ。

 そんなわたしからすれば、どんな彼でも彼ならばいい。

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