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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第7章 タモツ

◆ ◆
その約二十分後、僕はアパートから少し離れた、小さな喫茶店にきていた。
駅から遠い住宅街の中にある純喫茶は、扉は開いていたけど『準備中』の札がかかっていたので、訪れた午前七時前に開店しているのかどうか、ぱっと見では判断できなかった。
それでも他に立ち寄るような場所もなく、駄目元で中を覗きカウンターの奥にいるマスター風の男性に「いいですか?」と聞いてみたら、なにも言わずに、うんうんと二度頷いていた。
そんなわけで岬ちゃんと会う前に、その母親だと名乗る女性と喫茶店のテーブル席で向き合っている。なんか奇妙な気分だ。
「彩佳から連絡があったのは、半月ほど前のことで……それ自体、とても珍しいことだったわ。自分で買い物に行けないから、食べるものを持ってくるようにって……」
おばさんは、目の前に置かれたコーヒーカップの中を覗くようにしながら、ぽつりぽつりと話している。
「最初は、段ボールで送ろうとしたんだけど。お米とかいろいろ入れたら、とても重くなってしまって……でも宅配ではなく直接持ってくるようにって、あの子が言ったの。家はそんなに遠くではないので別にかまわないけど、一度に持てる量はそんなに沢山は無理なので、最初に連絡があってからアパートを訪ねたのは、これでもう三度目だわ」
「直接、渡さなくてよかったんですか?」
おばさんは手にさげていた食料の入った紙袋を、アパートのドアの脇に置いた。そして、インターホンで岬ちゃんを呼び出すこともせずに、僕と話したいといって今こうしている。
「あの子が、私と顔を合わせたくないと思うの。まあ、こちらとしても合わせる顔がないというのか……」
「そうですか……」
なんとも言えない気分になる。

