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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第7章 タモツ

はあ……はあ……。
僕は立ち止まり、岬ちゃんの住む二階建てライトグリーンの建屋を見上げた。
呼吸を整えながら、外階段を静かに上る。そうしてゆっくり一歩づつ進み『205号室』のドアの前で立ち止まった。
いざ、この場に立つと、走ってきた勢いは完全に削がれていた。最後にきた時の様々なことが思い起こされ、迷惑そうに顔を歪めた岬ちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。
「とりあえず、メッセージで」
と、ズボンの後ろポケットからスマホを取り出した時、自分が情けなく感じ卑屈な笑みが口元に浮かぶ。拒絶されることは想定していたくせして、やはり僕はとことん意気地なしみたいだ。
「くそっ……どう思われたって、それでも」
朝陽が昇りはじめる早朝。僕は震える右手を、インターホンへと伸ばす。
「あの――」
「――!?」
突然声をかけられ、心臓が飛び出すくらいに驚いた。
恥ずかしいくらい大きなリアクションを取ってしまった僕は、自分の傍らにいつの間にか立っていた小柄な女の人の存在に気づく。
四十歳くらいだろうか。僕の母親より少し若いくらいの年齢にみえた。暫く目を合わせたまま言葉を探す僕に、その女の人は先に訊ねた。
「あなたは、彩佳のお知合いの方?」
岬ちゃんは〝弘前あやか〟としてモデルの仕事をしていた。それが本名であり、確か正しくは〝弘前彩佳〟だ。
「はい、そうですが……」
友人や恋人ではなく、知り合いかと聞かれたら、返事はそれで間違いない。そして「そちらは?」と不躾な質問を口にしたと同時に、この女の人が誰なのか察しがついていた。
「彩佳の母です」
訝し気に僕をまじまじと見つめながら、おばさんは名乗っている。

