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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第7章 タモツ

「いらっしゃいませ」
僕は控えめな声でいって、また床の清掃に集中した。
レジでのやり取りが、耳に入る。
「マルボロ・メンソールね」
「はい。いくつっすか?」
「五箱」
ん……?
ちょっとした既視感を覚え、僕は作業の手を止めると、レジの方に向き直った。
黒のレザーのコートを羽織った長身。波打つ茶色がかった長髪。その後姿を見て、少し前に美里さんに絡んできた男を思い出した。
「ああ、それと。おでん、もらおうかな」
「ああ、はい。どれにしますか?」
「じゃあ、コレとコレ――あと、コレも」
そんなレジの様子を注視しながら、不思議と胸の中にモヤモヤとしたものが募っていくように感じる。
なぜだろう?
確かに前回は、あの男性客と軽くトラブルになりかけたけど、一応は注意をしたら引いて帰ってくれた。今もごく普通に、タバコとおでんを買い求めてるだけなのに……。
しかし、そうした僕の直感――その男に対する嫌悪感は、正しかったのだ。男はレジで会計を済ませると、先輩に聞いた。
「ねえ、お兄さん。弘前あやかってモデルはご存知?」
「は? なんで?」
「いいから! しってるの、しらないの?」
「まあ、しってますけど。二年くらい前だっけ? サンマガとかのグラビアにも出てたし、結構人気あったんじゃないすか。でも、なんでそんなことを俺に?」
「ハハ、いやいや。ちょっと、この辺りに住んでるって小耳に挟んだもので、気になってさ。彼女、あのスキャンダル以来、芸能界から追われるように姿をくらませたからね」
「アンタ、雑誌の記者かなにか?」
先輩が聞いた。

