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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章 均

もしかしたら僕は、彼女を自分より弱者とわかった上で、施して悦に入ろうとしていたのではないか。自分の人生が上手くいってないことを誤魔化すために、自分よりも社会とかけ離れた存在を身近に感じていたかったのでは――?
そんな内面を見透かしたからこそ、彼女に突き放されたと考える方が自然のようにさえ思える。そうであれば岬ちゃんはもう二度と、僕の顔なんて見たくはないはず。
電車に揺られながら思慮していると、ズボンのポケットに入れていたスマホがメッセージの着信を告げた。
〖前に話したイタリアン予約するね〗
〖時間は何時にする?〗
と、それは美里さんからのメッセージだ。
「どうして僕なんかに、かまってくれるんですか?」
都心とは逆方向で空いた電車の車両。その空気の中に、力なく独り言を投げ捨てた。最初から、まるでわからない。どうして美里さんのような人が、僕に興味を抱いてくれたのか。
暫く電車に揺られていると、自然に微睡を覚えた。そんな曖昧な思考の中で、ふと「別に、いいだろ」と言葉を投げかけられた気がした。
美里さんなら岬ちゃんとは違って、間違っても僕が安い同情を示す相手ではない。むしろ逆に、同情される側だろうから。
自分より立場が上と感じる相手の方が、今は気楽になれる気がした。そう考えれば、美里さんは願ってもない相手なのだ。
それで、もし仮に自分が傷つくことになったとしても……。
【午後八時でいいでしょうか?】
僕は美里さんに、そんな返事をした。

