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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第4章   岬? 


    ◇    ◇


 その待合室には五、六人が座れるシートが三列に並べられていて、更に壁際にもそれらを取り囲むようにコの字にシートが配置されていた。

 南側には窓があって、花柄の模様の曇りガラスが日差しを柔らかいものに変える。

「……」

 わたしは一番前のシートの端に腰掛け、受付から名前を呼ばれるのを身じろぎもせずに待っていた。

 その時も、当然のように一人だった。

 日時は明確に記憶するけど、ここでは〝ある平日の午後〟ということにする。その時間、待合室には一人しかいなくて、わたしは早くその場から立ち去りたいと、それだけを考えていた。

 なのにやがて、男女のカップルが現れ、受付の女性に「そちらでお待ちください」と言われると、わたしの斜め後ろ、三列目のシートに並んで腰を下ろした。

 二人の顔をよく見たわけではないけれど、男性は眼鏡をして優しそうな笑顔を浮かべた人で、一緒にいた女性のことを頻りと気にかけ、二人は寄り添っていた。

 女性のお腹が、随分と膨らんでいるのがわかった。

 決して大きな声で話してるわけではないけど、静かな待合室では二人の会話がよく通った。

 わたしはそれに、自然と耳を傾けていた。

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