この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第4章 岬?

◇ ◇
その待合室には五、六人が座れるシートが三列に並べられていて、更に壁際にもそれらを取り囲むようにコの字にシートが配置されていた。
南側には窓があって、花柄の模様の曇りガラスが日差しを柔らかいものに変える。
「……」
わたしは一番前のシートの端に腰掛け、受付から名前を呼ばれるのを身じろぎもせずに待っていた。
その時も、当然のように一人だった。
日時は明確に記憶するけど、ここでは〝ある平日の午後〟ということにする。その時間、待合室には一人しかいなくて、わたしは早くその場から立ち去りたいと、それだけを考えていた。
なのにやがて、男女のカップルが現れ、受付の女性に「そちらでお待ちください」と言われると、わたしの斜め後ろ、三列目のシートに並んで腰を下ろした。
二人の顔をよく見たわけではないけれど、男性は眼鏡をして優しそうな笑顔を浮かべた人で、一緒にいた女性のことを頻りと気にかけ、二人は寄り添っていた。
女性のお腹が、随分と膨らんでいるのがわかった。
決して大きな声で話してるわけではないけど、静かな待合室では二人の会話がよく通った。
わたしはそれに、自然と耳を傾けていた。

