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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

なんとも思っていないのだろう。
唇や舌であんなことをしたことや、わたしに欲情したことは。
あの場限りの蝉のように、彼もまたじりじりと鳴いただけ。
次に鳴く機会はもうないのだ。
自分から拒んでおいて、それを寂しく思う自分が嫌になるけれど。
「……藤城さん?」
「は、はい?」
「大丈夫ですか? 昨日はちゃんと寝れましたか?」
専務として労ってくれているのか、ただの皮肉なのかわからないけれど、余裕の笑みでこういう聞き方は、本当に頭にくる。
あんなことをされてぐっすりと寝れたら、相当神経が図太い女だ。
「はい、ぐっすりと眠れました。おかげさまで」
だからにっこりと笑ってそう言ってやる。
「そうですか、それはよかった。僕は一睡も出来なかったので、おかげで案が捗りました」
詰るような視線を貰い、さらに頭にきたわたしは、すっとぼけて訊く。
「へぇ、専務はなにか悩み事があるんですか?」
「はは、どうでしょうね。たとえば昨日舐めた蜜が甘くて美味しかったから、また舐めたいのだと言ったら、悩み解消のレッスンでもしてくれますか?」
「レッスンなんてそんなご大層なものでなくても、蜂蜜を買って差し上げましてよ」
「これは僕だけしか味わえない、秘密の蜜なんです。なにせ他の男の前には、枯れてしまっているというもので希少なんですよ。なぜ僕にだけは、蜜が溢れるんだと思います?」
「さ、さぁ?」
「今度藤城さんにも舐めさせて上げますよ。あ、フルーティではないですけれど」
「いりません!」
「ははは」
言い負かすことが出来やしない。昔はわたしの方が強かったというのに。

