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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

「溺恋ではなく、溺愛なんですか?」
揚々とした怜二さんが消えた専務室で、わたしは巽の向かい側に座り、淡々とした口調で打ち合わせを始めた巽が言葉を切った時に、疑問を口にした。
「いえ、溺恋です。あなたが仰ってたコンセプトで行きます」
「ではなんで、れ……広瀬課長には溺愛だと……」
「なぜだと思います?」
巽は、わたしが出した提出書にまた赤字で細々と書き込んだのを、テーブルに広げていた。
そこには溺愛とはタイトル変更にはなっていなかったために、わたしは不思議に思ったのだ。
「わからないから質問しているんですが」
「はは、そうですね。まあ言うなれば……保険というか餌というか」
「保険と餌と、同じには思えませんが」
「同じ意味です。なにもなければよし、あればあったで仕方がない。発色の件はメインでなくとも役立つから、それは彼に調べて頂くということで。色ですが二色、出したいと思います。どの色を想定していますか?」
まったく意味がわからないまま、さらりと流されて仕事の質問をされる。
巽が取り出したのは、カラー見本。
「わたしが思っているのは、アムネシアローズの色です」
「アムネシアローズ?」
「ええ、儚げなのに気品があって誇り高いアムネシアのあの色を」
この溺恋は巽を想定している。
巽を欲情させるためには、巽と関連深いアムネシアを強く打ち出したい。

