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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

 
 巽だから蕩けて感じる身体は、心よりも正直で。

 もう、どうしようもなく、

「た、つみ……」

 どうしようもないほどに、巽が好きだ。

 彼の匂い、熱、強さ……そのすべてに、やはりわたしは、苦しいくらいに巽が恋しくてたまらないのだ。

 愛されているから愛そうとしているのではない、理屈抜きに巽にだけに能動的に湧き上がる感情は、昔となにひとつ変わらない。

 切なくて苦しくて胸を痛ませるのに、心を潤すこの甘美な気持ちは――。

 しかし好きだと言えない唇は、ただ戦慄くだけだった。

「巽……」

 十年以上経っても、まだ巽を好きだと思う心は、いずれどこかに消え去るのだろうか。

 わたしの心は、あの日鳴いた蝉のように、いつか朽ちてなくなってしまうのだろうか。

 わたしが巽を愛した証は、風塵に帰すのだろうか。

 それはあまりに悲しくて。

 わたしは、ここにいる。
 わたしは、あなたを見つめている。
 たとえあなたに恋人がいようとも。

 あなたを好きなわたしは、ここに在る。
 わたしは、あなたに――恋をしている。
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