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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける
 
「そ、その……」

 巽はわたしをベッドの上に腰掛けさせ、自分は床の上に座りながらわたしの両手を掴み、下から顔を覗き込んでくる。

「アズ。お前、濡れないのか?」
「ち、ちが……」
「あいつと、セックスしてないのか?」
「し、してる」

 僅かに巽の目が細められた。

「じゃあ濡れないお前に、あいつが無理矢理?」

 巽の目が剣呑になってきて、慌てたわたしは正直に言わざるをえなくなってしまった。

「ロ、ローション」
「え?」
「通販に、その……、濡れたように出来るラブローションというのが売っていて……」

 巽の目が怖くて縮こまってくる。

「それを……する前に……内緒で、入れて……」

 ああ、消え入りたいこの切なさ。

 それを知ってか知らずか、巽は笑い飛ばさず依然真剣な顔のままだ。

「じゃあ今日、あいつの泊まりの誘い断ったのも?」

 そこまでばっちり聞いていたんですね。
 逆に隠すものがなにもないんじゃないかっていうくらいの情報持ち。

「う、うん。そんなもの、普段持ち歩かないから、わたし」
「それで、あいつはなんと?」
「い、いいじゃない、そんなこと」
「アズ」

 巽の目が怖くて、やはりわたしは身体を丸めて、叱られた子供のように答える。

「濡れやすいんだなって」
「……。全然気づいてないのか、あいつ」

 呆れたような声音に、わたしはこくりと頷いた。

「お前も、そこまでする必要があるのか?」

 ああ、恥ずかしい。
 まるで、部屋に隠していた、いけない玩具を親に見つけられて叱られている気分だ。
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