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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「杏咲……っ、それとは違……」
「同じよ。あなたには由奈さんがいる。わたしには怜二さんがいる。仮に由奈さんと怜二さんが関係があったとしても、だからといってわたしとあなたがなにかあっていいはずがない。それは道理よ」

 巽は悲痛な表情をした。

 わたしには巽の心が見えない。
 彼はわたしを憎々しく思っているはずなのだ。

「あなたの勘違いか真実なのかわからないけれど、わたしをあなたの復讐と寂しさを共有する相手にしないで。欲求不満で誰かを抱きたいのなら、よそをあたってくれる? あなただったら、女は選り取り見取りでしょう。もしもわたしを哀れんでいるのならお門違い。他に……」

 わたしの身体がぐいと引かれて、巽の身体に包まれていた。

「ちょっ、離し……」
「離さねぇよ」
「巽!」
「……あいつを好きになるなよ。あんな男と会社で乳繰り合うなよ!」

 やっぱり見られてた!

「あ、あれは……っ」

 離れない巽の手は、わたしの手の甲の骨を折ってしまいそうなほどに、強く力を入れた。

「アズ、あんな男と結婚するな」

 熱に浮かされたような痛々しい巽の声が耳に響き、身体がカッと熱くなる。

「お前の初めての男を、記憶から抹殺してるんじゃねぇよ!!」

 巽が手を握られていない方の手で後頭部を固定して、噛みつくようなキスをしてきた。

 今度は救助ではなく、怜二さんに言い逃れが出来ない、男と女のキスだった。
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