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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「では、誤解が解けたようでしたら、この後藤城さんとふたりで打ち合わせをしてもよろしいでしょうか。ははは、大丈夫です。広瀬さんの溺愛されている可愛らしい恋人を、取って食いはしませんので」
そして――わたしの鎧であったふたりは、快く席を外す。
頑張って打ち合わせをするようにと、笑顔で。
どうしてこんな状況になった。
それは……すべて巽の故意的な誘導によるもので、巽は、相手に同調した姿勢を見せることで攻撃の手をするりと躱したのだ。
それは、幼い巽がよくしていた。
義母や父に怒られそうになった時に身につけた処世術だとも言えよう。
だけど、わたしは騙されない。
伊達に彼の義姉をしてきたわけじゃない。
そちらが変わらぬ姿で偽ろうとするのなら、わたしもまた変わらぬ見方でその虚構を看破する。
案の定、ドアが閉まると同時に、巽から嘘くさい笑みは消えた。
そして礼儀正しく座っていたソファにふんぞり返って座る。
……ちょっとそれは、仮にも元義姉に失礼ではないのか?
そうツッコミたくなるくらいの豹変。
しかも、昔だってここまであからさまに態度は悪くなかった。
巽は前髪を片手で掻き上げてから、手も足も組んで実に不愉快そうに言った。
「ちょろい奴。あいつ絶対、偽祈祷師から壷や札を買うタイプだよな」
はっ、と嘲るように彼は笑う。
セックスを最後にして、十年ぶりの再会を果たした彼の第一声はそれなのか。
なんだか悲しい。
好意的ではないことは十分わかっていたけれど。

