この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「その重要な役目を、なぜ藤城に?」
「広瀬さんの彼女だから。有能な広瀬さんが見込んだひとが、無能であるはずはない。だから選ばせて頂きました。企画が初めてであるのなら、そんなに難しいことはさせません。僕の補佐的ポジションについて貰いますので、ご安心下さい」
怜二さんの質問に、嘘くさい笑みで巽は答えた。
それが理由ではないということは、バレバレだというのに。
「では……。ルミナスの社員のクビを切られるというのは……」
「あははは。あんなの嘘に決まっているでしょう。上位の化粧品会社に勤めるとなれば、そのブランドだけで満足して仕事をしようとしない輩が出てきますからね。ルミナスさんがそうだとは言いませんけれども、人間どう変わるかわからない。一番肝心なのは、新しい会社に勤め始めてすぐの時です。だから発破をかけさせて貰いました。これで皆さんは、真剣に仕事をしようとするでしょう」
……いまだ嘘くさい笑みだ。
それなのに怜二さんと由奈さんは笑みを零した。
「なんだ、そんな理由だったのね、巽くん」
「はーっ、そうだったんですね。気が抜けましたよ、すみません怒鳴り込んできて」
「ははは。せっかく同じ会社になれたのに、そんな不和めいたことを本心でするはずないじゃないですか。ただ、皆さんには黙って、うまく宥めていて下さい。それで口紅が完成したら、あなたの彼女の功労だと自慢なさって結構です」
ざわざわと、背筋に悪寒が昇る。
なんでふたりは好意的に信じられるんだろう。
巽の目が笑ってないじゃないか。
そんなこと、彼は絶対思っちゃいない。
だけど黒い瞳がわたしに向けられた時、その威嚇めいた光に怯んでしまった。
余計なことを言うなと言わんばかりに、不機嫌そうに細められる。

