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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「藤城さんが仰る通り、男である僕にはまだまだ化粧品は未知なる部分が多い。それを、藤城さんにカバーして貰いたいんです。ティーンを既に通り越し、マダムにもなり損なっているあなたに」

 ……なんだか最後、とても失礼なことを言われていなかったか、わたし。

「ターゲットは独身OLで、新シリーズを立ちあげたい。その前哨となる口紅を、大々的に宣伝する。十周年という名目で」

 巽は真剣な顔で言った。
 どんなチャンスも逃さず、アムネシアのために宣伝したいと、アムネシアを一途に愛する男のように。

「アムネシアは、主婦層だけに人気の化粧品だ。しかしそんな限定的な商品だけでは生き残れない。現状維持のままで進めという上の声を振り切るために、まずは最初にOL層を狙って切り込む。そのつもりです」

 ……なぜ彼は女性主流の化粧品の、さらにはアムネシアという名前の会社に入ったのだろう。
 彼なら、もっと前線でバリバリと働く、グローバルな一流の大企業でもいけたはずなのに。

「口紅一本で?」

 そう、率直に聞き返したのは怜二さんだった。

「口紅は女性にとってなくてはならないアイテムです。化粧品の要ともなる。女性が色づいてくるのは、まず唇からだ。そして唇はその女性の心を言葉として吐き出す、重要な器官でもある。そして男性が女性の唇に求める幻想も大きい。唇は、その女性の性的な意味合いも強い」

 巽は、わたしの唇をじっと見た。
 しっとりと濡れたような黒い瞳に、わたしだけを映して。
 ぞくりとして、わたしは巽から静かに顔をそらした。

「たかが口紅、されど口紅。新しいアムネシアは、その口紅から始まります」

 まるで滔々とした演説のように思えた。
 巽はこんなに弁が立つ男だっただろうか。

 そしてわたしは、彼の弁に興奮してイメージを掻き立てられていた。
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