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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「そして専務、あなたはアムネシアの製品をご自身で企画なされて、商品化されたことがあるんですか?」
わたしは怖れもせず、巽の黒い瞳を見据えて言った。
巽はふっと笑った。嘲るように。
「つまり、ずぶのド素人ふたりが企画をしていても、おかしなものが出来上がるだけで、それはアムネシアの恥になるだけだと?」
巽は学校の成績はよかった。
頭はかなりいいのだ、中の中の成績を保持して無難な二流大学を卒業したわたしとは違い、きっと若くして専務にまでなれたのだから、難関高校や大学を卒業しているのだろう。
「……そうです。付け加えるのなら、あなたは男性です。なにが女性にとって素晴らしい化粧品なのか、その審美眼に信用が出来ない」
どうだ。あなたが変えようもない男である限り、なにも言えないだろう。
しかし怜二さんは焦るようにして言った。
「藤城、それはいいすぎだ。アムネシアの主力シリーズは、専務が企画開発したものだ」
「え……」
それは……リピーターが多くい空前の大ヒットとなった、アムネシアの抗老化と美白を合体させたあの『眠り姫(スリーピングビューティ)』シリーズのことを言っているのだろうか。
どちらも昔からどの化粧品でも取り扱うものではあるけれど、『眠り姫は目覚めてこそ美しさがわかる』というキャッチコピーで、業界初となる高濃度ヒアルロン酸とビタミンCを組み合わせて、しかも保湿成分を強めたものだから、眠っている間に集中的に肌を改良して、目覚めた時に若返ると謳われている。
値段はとても高いのに、それでもマダム達は買い漁っていると聞く。効果があるからリピーターは増え、今ではすぐ買えずに予約待ち状態だと。
――く~、能力の差かなあ。私もこんな商品作ってみたいわ。いや、ルミネスで作ってみせる!
よく打ちのめされた香代子が、嘆いて羨ましがって奮起していた、あのシリーズが。
主婦業に励む忙しいマダム達が、いつだって枯れない美を求めている心理につけ込み、マダム達をお姫様にたとえるなんて女性心理を突いているなあと思った、あのシリーズが。
巽の企画!?

