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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

 彼はわたしの知らない大人びた笑い方をして、高校生とは思えない性的魅力(フェロモン)に溢れた色気を出しており、不特定多数が彼の色気に悶えていたと思うと、密やかに傷心する。

 画像の彼は、今よりももっとわたしの記憶にの中に近い彼なのに、見知らぬ別人のように遠い存在に思え、巽はわたしだけの巽ではなく、皆の巽だった。

「多分、誰も気づいていないと思うよ。だってあの氷の氷室っちが、カメラマンに言われてカメラ目線であんなことやこんなことをして愛想振りまいていたなんて想像つかないから。誰かに使われる方ではなく、使う側に生まれた人間だよね、彼」

 確かに――モデルなどひとに媚びるようなものは不得手だったはずなのに、なぜそんなことをしていたのだろう。

「年下には思えない貫禄と自信。支配者としての自覚がなきゃ、顔見せの時に首切りの話なんてしないでしょう。アムネシアの上品なイメージ、一気に悪くなったわ!」

 香代子はぷくりと頬を膨らませた。

「しかし。このモデルのTATSUMIって、結構雑誌とかでも取り上げられて有名だと思ったんだけれど、杏咲ちんは知らなかったの? タツミィが高校生モデルしているって、大学で」
「まるで、全然知らなかった。わたし大学で授業受けていない時は色々とアルバイトしていたから、そういうこと話せる友達らしい友達もいなかったから……」
「そうか、そうか。私が初めての友達なのね、お~よしよし」

 わたしは素直に頭を撫でられ、少し顔を赤らめた。

 彼女は特異な喋り方をするけれど、わたしにとって唯一巽とのことを告白出来た心の友でもある。
 彼女だけは気持ち悪いと思わずにわたしのことを理解してくれる――今でもそう思える友達なのだ。
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