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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

 ***

「よかったよ~、気がついて」

 白い靄がかった視界の中に、香代子の心配げな顔が映る。

「ん……ここは……」
「二階の仮眠室」

 ゆっくりと身体を起こすと、なんだか眩暈がして、香代子に支えられて上体を起こした。
 仮眠室は二段ベッドがふたつある大部屋と、簡易ベッドがある小部屋が二部屋あり、わたしは小部屋で寝ていたようだ。

「わたし、どうしてここに……」
「倒れたのよ、アムネシアの専務が話している途中で。さっきまで広瀬氏もいたんだけれど、氷室専務に呼ばれて出て行って。……そりゃあ、ぶっ倒れるほどキツいわよね」

 香代子は妙に哀れんだ眼差しを寄越した。
 慈悲深い、美しい聖母のように見える。

「キツい? ああ、氷室専務が巽だったこと?」

 すると香代子は目を大きく開け、激しく驚愕した顔でキャスター付の椅子ごと、ざざっと後ろに下がる。

「ええええ!? 専務がタツミィなの!?」
「うん、わたしも驚いたけど」

 そのリアクションの激しさに笑ってしまうが、わたし自身驚愕は隠せないから、気持ちはわかる。

「杏咲ちんの義弟って、めちゃくちゃ美形じゃん! それにどこかで見たような顔と色気だなと思ってて、で、さっき思い出してネット見てみたんだけれど、うちらの大学時代に一世風靡した、謎の高校生モデルTATSUMIだよ、あの顔!」
「巽がモデル……」
「ローマ字だけど、名前まんまだし本人だって! あの時は今より少しあどけない感じだったけど、高校生とは思えぬ色気が、今は大人の魅力として昇華されている感じだけどね」

 香代子はカラカラとキャスターの音をたてて戻ってくると、スマホを取り出して、巽らしき画像を取り出す。それは記憶にある巽よりも大人びた、だけど今の姿よりは随分と若い姿が映っていた。
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