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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「……ではこうしましょう。再来月、アムネシアは十周年を迎え、僕達の結婚式があります。それを記念して、アムネシアの口紅を開発することにします」

 ふわりとアムネシアの、儚くも甘い匂いが巽の周りから漂い、意識が朦朧となってくる。

 会いたかった。
 会いたくなかった。

 じりじりと、蝉の音。
 耳障りな蝉がたくさん鳴いている。

「今度のアムネシア十周年の特別企画の口紅は、藤城さんと僕とで開発をします」

――再来月、アムネシアは十周年を迎え、僕達の結婚式があります。

 今までどうしていたの?
 ねぇ、わたしのこと、思い出すことはあった?

 「アズ」とあなたが呼んだ、あなたと仲が良かった義姉のことを。
 あなたが避けるようになった、苛立つような義姉のことを。
 思春期で爆ぜたあなたが初めての男になったことに、嬉しいと感涙していた愚かしい義姉のことを。
  
「コンセプトは、禁断の愛。藤城さんの開発力に、ルミナス全社員の命運をかけることにしましょう」

 ねぇ、巽――。

 胸を掻きむしりたいくらい、切なくてたまらないよ。
 あなたをもう、忘れたはずなのに。
 
 忘れなきゃ、わたしの初恋は。
 忘れなきゃ、巽に疎まれていたことを。
 忘れなきゃ、あの甘美な繋がりを。

「おい、どうした!? 杏咲!?」

 じりじり、じりじり。
 殺伐とした蝉時雨がわたしを急き立てる。

「広瀬さん、どいて下さい。僕が運びます」

 じりじり、じ……。
 蝉の音が静まり、そして胸が絞られるほど愛おしい声が耳に届く。


「……忘れさせはしないよ、アズ――」


 その甘く優しい声音は、わたしの子宮をダイレクトに疼かせ、枯れ果てていた花園に潤いを与えた。

 彼の声音だけで、身体が熱くなって蕩けたわたしは、内股に幾つもの淫らな蜜を垂れ流す。

 十年前に義弟だった、久しぶりに会った男に――わたしは、あってはならぬ欲情をしたのだった。
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