この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「……ではこうしましょう。再来月、アムネシアは十周年を迎え、僕達の結婚式があります。それを記念して、アムネシアの口紅を開発することにします」
ふわりとアムネシアの、儚くも甘い匂いが巽の周りから漂い、意識が朦朧となってくる。
会いたかった。
会いたくなかった。
じりじりと、蝉の音。
耳障りな蝉がたくさん鳴いている。
「今度のアムネシア十周年の特別企画の口紅は、藤城さんと僕とで開発をします」
――再来月、アムネシアは十周年を迎え、僕達の結婚式があります。
今までどうしていたの?
ねぇ、わたしのこと、思い出すことはあった?
「アズ」とあなたが呼んだ、あなたと仲が良かった義姉のことを。
あなたが避けるようになった、苛立つような義姉のことを。
思春期で爆ぜたあなたが初めての男になったことに、嬉しいと感涙していた愚かしい義姉のことを。
「コンセプトは、禁断の愛。藤城さんの開発力に、ルミナス全社員の命運をかけることにしましょう」
ねぇ、巽――。
胸を掻きむしりたいくらい、切なくてたまらないよ。
あなたをもう、忘れたはずなのに。
忘れなきゃ、わたしの初恋は。
忘れなきゃ、巽に疎まれていたことを。
忘れなきゃ、あの甘美な繋がりを。
「おい、どうした!? 杏咲!?」
じりじり、じりじり。
殺伐とした蝉時雨がわたしを急き立てる。
「広瀬さん、どいて下さい。僕が運びます」
じりじり、じ……。
蝉の音が静まり、そして胸が絞られるほど愛おしい声が耳に届く。
「……忘れさせはしないよ、アズ――」
その甘く優しい声音は、わたしの子宮をダイレクトに疼かせ、枯れ果てていた花園に潤いを与えた。
彼の声音だけで、身体が熱くなって蕩けたわたしは、内股に幾つもの淫らな蜜を垂れ流す。
十年前に義弟だった、久しぶりに会った男に――わたしは、あってはならぬ欲情をしたのだった。

