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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「なーに黄昏れちゃってるの!」
ビルの休憩室は、一面の東京の遠景を見渡せる窓際に足の長い椅子が並んでいる。
自販機のドリップ式の珈琲を飲みながら、仕事に厳しい怜二さんに却下されたイメージ案を嘆いていると、思いきり背中を叩かれ、危うく白いブラウスに染みを作りそうになる。
「ちょ、香代子!!」
「ごめんごめん。……で、広瀬氏とのラブにも翳りがあるのかね?」
背の高い美女は、わたしの同期で同じ課に配属されている企画のエース山本香代子。
長身で十頭身くらいある抜群のプロポーション。
小さな頭の中にはなにか詰まっているのか、いつも覗いてみたくなる。
「違うよ、そっちは別にいいの、広報がねぇ」
「別にいいのか、このこの! ルミナス一の色男を営業から転属させて、さらに直属の上司にして、こっそりメモに『今日六時にあの場所で待ってます♡』なんて、きゃーエロエロ!」
「香代子。時代はLINEだから」
彼女は基本陽気でよく口が回る。
営業を希望しなかったのが、本当に不思議だ。
口さえ開かなければ、深窓の令嬢なのだが、残念極まりない。
怜二さんはやり手の営業マンだったのに、そこから商品開発部に転属届を出して異動したのは、内勤になるわたしと一緒にいたかったからだと、後日彼は言っていた。
かなりアプローチをかけたらしいが、どのへんがそうなのかわたしにはさっぱりなのだが、わたしと付き合ったと彼が全社員の飲み会で告白すると、なぜか皆は泣いた。
――よかった。やっと春が来たんだな、広瀬。
――枯れないうちでよかったですね、課長。
……怜二さんがわたしを落とせないと悩んでいたらしいのは、周知の事実だったらしい。

