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隷吏たちのるつぼ
第6章  第五章 誨淫の舎



 日本海に近い山間地であるから、一年を通して曇天が続くと聞いている。確かに、N市に越してきてから晴天に恵まれた日は少なかったと思う。今日は数少ない青空であるのに、鬱蒼とした木々に陽を遮られ、地面に散らばっている、腐食して湿った木の葉の臭いを嗅いでいると、爽やかに囀りながら渡っていく鳥たちとは隔絶した場所に生きる、低劣な生き物であると思えてくる。

 禽鳥に劣るケモノが制服を着ているのは滑稽だ。
 会館に配属されて制服を手渡された時、色味といいデザインといい、誰がどうやったらコレが採用されるのか、決定者の美的センスを咎めたかった。しかし何とも畏れ多いことを考えたもので、自分にとっては、この野暮ったい衣装でも贅沢だったのだ。

 智咲は脚を伸ばしたまま両手を前につき、山道を登っていた。膝をついた姿勢より、この格好の方が不様で、ふさわしい。膝に丸まっているストッキングとショーツが枷となり、内股で頼りなく、ヨタヨタと進む。

(ごめんなさい……)

 主に対してだけではない。世の中全てに申し訳なく思った。

(イ、イヤラしくて、ごめんなさい。ば、罰なのに、すごく、気持ちいい)

 もう、尾は与えられていない。後ろに差し向けた花唇がこぼす悲涙は、空虚を嘆いて白んでいる。媚薬によって淫楽を強制されているのではない。もともと自分はかくも邪淫な気質で、薬効がそれを暴いただけだ。

(ん、ま、また……)

 上腿が震え、行き足が鈍った。背が反り、腰がくねる。

「ウー……」

 後肢に何も与えられていない代わりに、轡を噛まされていた。涎と涙の混ざった泡垂を顎から揺らし、背後を振り返ると、

「なんだ。もう一発か?」

 征四郎が鞭を振りかぶった。智咲は唸り哭いて深く頷いた。

「フォブッ!!」

 鞭が炸発した。どこかの枝で休んでいた鳥が、音に驚いて飛び去った。

(イクッ……、ああっ、すごいっ!)

 尻肌を灼く裂痛が蜜壺に伝わると、絶対に他の者からは得られない、この世で征四郎しか施し得ない愉悦が広がり、絶頂がはじまった。

(オ……、オシッコ……)

 極まっている最中の排尿は著しい快癒をもたらしてくれる。しかし道程で五回目の昇天ともなれば、白い脚肌の間に僅かに雫が落ちた程度だった。
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