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隷吏たちのるつぼ
第5章  第四章 口開く陥穽
「んっ……」

 唇を緩めて舌を待ったが、太一は上下の唇を軽く挟んできた。智咲は密かに舌をしまい込み、彼のしたいようにさせた。口臭はない。アルコールの味が仄かにする、爽やかな唇だ。

「……男の人、簡単に引っ張り込むような子だと思ってる?」
「思ってないよ」
「こんなふうに、男の人を簡単に部屋に入れないよ? 入れないんだけど……」

 昨日野獣へ寝ぐらを提供したというのに、また嘘をついて罪を重ねた。

「んとね、こんなこと言って嫌わないでね。……あのね、すごく、したいの。すごく」

 首へ腕を回して抱きついた。汗の臭いも爽やかだ。彼の胸の中から強い鼓動が聞こえてくる。

 太一は智咲を抱きしめ続けていた。彼と密する体に、肉塊の硬みを感じない。好意を抱いた女の子がこんなことを言ったから、どこかの横暴な獣とは違って、失望してしまったのだろうか。

「男の人、本当に、誰でも部屋に入れるわけじゃないの」
 智咲は、しかしあなたは導き入れたのだ、と念を押し、「でも、ごめんね。でもね、どうしても、その……」
「大丈夫。嫌ってなんかいないよ」

 太一は遮り、格好をつけて横抱きにかかえると、智咲をベッドへと運んだ。丁寧に服を解いてくる。
 シャワーを浴びないけどいいかと気遣い、優しいキスを降らせてくる。出来るだけ暗くして欲しい、と頼むと、カーテンをしっかりと閉じ、お互いがシルエットにしか見えないほど明かりを落としてくれた。

 指で蜜壺を激しくかき回すなんてことは決してせず、唇で丹念に慈まれる。もちろん、手で扱かせることも、喉奥を強引に突くこともない。

 濡れた。だがそれは次なる期待が滲ませたのであって、いざ次の段階へ移ると常に裏切られた。アルコールを買いに寄ったコンビニでだろうか、いつのまにやら手に入れていたコンドームを装着し、繋がっても絶えず智咲の機嫌を伺うような、穏やかな腰使いだった。それだけの筋肉を有していれば、小さな体の自分なんか粉々に壊せるくらい、力は強かろうに。
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